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感じることをそのままに...。

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JUL 2011

『夏のポケットに。。。』

打ち合わせもほとんどグランドハイアットだし、デスクワークは自宅のMacで全てすんでしまうためにめったに行かなくなってしまった青山の事務所に久々に立ち寄った。
僕のデスクの上にはどれだけ来てなかったのかを物語る郵便物の山...あまりの多さにやや憂鬱さも感じつつぱらぱらとチェックしていると、一通だけ手書きなうえに僕の「小川和宏」本名名義での封筒に目に留まった...。
それも僕とはまったく縁のない赤坂のそれはそれは有名な懐石料理屋さんからのものだったので、何事かと恐る恐る封を開けると......
そこにはなんと、どうしようもなく遊びほうけていた高校時代...ちょっと可愛い女の娘なら片っ端からつき合っていたような28年以上の前の僕が、そのあまりに清潔感と透明感に圧倒され、最後まで本心を打ち明けられないままいつしか連絡が途絶えてしまった唯一心残りだった当時のマドンナからの手紙が、あの時のままの彼女の面影を彷彿させるような、繊細かつしっかりした文字で綴られていた。
そして当時はまったく気がつかなかったが、こんな超有名料亭の娘さんだから彼女の品の良さや立ち振る舞いが他の娘たちと一線を引いていたんだなと、今さらながらに気づいた。
文章の最後に連絡先も書かれていたので思わず電話をかけてしまう...数回のコールの後,電話口にでた彼女の第一声は...落ち着いた品のいい低い声で「カズ?覚えてる?」
何分...いや何十分話しただろう...28年もしゃべっていなかったのが噓のように会話がはずみ、いつしか僕たちはあの頃のただの高校生に戻っていた......まだただの『お坊ちゃま』と『お嬢様』だった暁星の僕と学習院の君に。。。

*『暁星学園』小学校入学式の朝、自宅前にて...。親父が生きてる間(僕が18の時、他界。享年62歳。)はホント『お坊ちゃま』だったんだけどなぁ~


単純に最近、学生時代の友達と食事に行った時に僕の名前が出たので懐かしいなぁと思っていたら、偶然ネットサーフィンで僕のホームページを見つけたらしく筆をとったとのこと。
未だアナログ中心な僕らの世代にも、たまには最新の技術も役に立つ事もあるものだ。
「カズの世界とは違って、ふたりの子育てをしながら実家の手伝いをしている普通の主婦よ...。」と笑う彼女の声を聞いていたら、時間の壁が崩れたかのようにどうしても久しぶりに会ってみたい衝動にかられてしまった。
美しい思いでは美しいままとっておいた方がよかったのかもしれないけど、あの細くて、小ちゃくって、引っ込み思案ではにかみやさんだった彼女がどんな料亭の若女将になっているのかもとても興味深いものである。
後日、待ち合わせた青山の『ダイニーズテーブル』に少し遅れて入って行くと、主婦業があるから遅い時間まではいられない彼女のリクエストを聞いて早めの時間に予約したためにまだ誰もお客のいない店内でひとりぽつんと、
背筋をピンと伸ばし少し不安な顔で彼女は僕を待っていた。。。この前まで行方も何もわからなかった彼女が今、目の前に28年もたったのが信じられないぐらいあの頃の面影を残したまま、そこに少しはにかんだ笑顔で座っている...
なんか現実ではなくドラマを見ているようなそんな気分である。人生は何が起こるかわからない。。。
新橋一の芸者さんだったここ『ダイニーズ』のマダムが僕を見つけるとわざわざテーブルまでご挨拶にきてくれた。「28年ぶりなんです...。」と彼女をご紹介すると「えっ!赤坂の**のお嬢さん?ずっと昔からあなたのご両親にはお世話になりっぱなしなのよ!」と思いがけないサプライズ!
いやいや、さすが似非お坊ちゃまの僕と違って本物のお嬢様には敵わない。
旦那さんの事、子供たちの事からはじまり一通りの近況報告を終えてから、お互い昔話しに花咲かせつつ、かすかに覚えのある遠い記憶をたどりながらこの日わかったことといえば、ふたりが最後に会ったのは18の時の、僕の父の葬儀の日だという事と、最初にデートする時に「小川君は遊び人だから気をつけなよ!」と女友達に聞いていたので彼女は相当警戒していったものの何も手を出してこなくて肩すかしにあったどころかすごく好感度が高かったという嬉しい事実......。
そしてどういういきさつかは思い出せないんだけど一度だけうちの青山の実家に遊びにきたことがあるという事と、そこで一度だけKissをした(もう時効だよね?)という事。。。
毎夜毎夜、オールで六本木から学校に通っていたような狂乱の日々をおくっていた10代の楽しくも恥ずかしい記憶の中で、何度も会っていない彼女との風景だけがなぜかゆっくりと流れたまま、美しいのはなぜだろう?
まとまらなかったピュアな気持ち...お互い気にはなってるのになぜか先に進む事のなかったせつない恋...きっと僕たちはあの時、ひとつだけボタンをかけ違えていたんだね?
28年目の夏の再会...もうもどる事のないその長い年月の間、まったく別々の人生を歩み、未だボタンはかけ違えたままだけど、いつでもあの日にもどって現実からの『かくれんぼ』につきあってくれる......
そんな内緒の『癒しのポケット』がその日、心の中に見つかった気がした。。。

親父の50歳のバースデー祝いに建て直した青山の実家の新築パーティーにて5歳の僕...。いやいやホント『お坊ちゃま』だったんですよ。。。